不動産所有が貴社の業績を圧迫させる
業績回復に伴い、事業が急激に拡大すると、売掛金が大きくなり、資金繰りが苦しくなることがあります。 また、儲かったお金のほとんどを事業に投資してしまうと、決算期末の税金が支払えなくなったりします。でも、そのように業績が良くなるにつれて生じる資金ニーズ(短期の運転資金であったり、儲かりすぎて支払う税金)であれば、 月次損益実績表(計画表)や資金繰り実績・予想表などの書類を作成し、銀行の知りたがる情報をうまく話して、 自社の資金ニーズをうったえれば、割りと簡単に短期の資金調達は行えます。
このような借入金であれば、今後の業績予測もつきやすいため、返済にそれほど困ることはありません。
ただ、『事業はうまく行っているのですが、借入金の返済で会社の資金繰りが苦しいのです。このままいくと、2~3ヵ月後には資金が回りません!』 という話をよく聞きます。
その最大の原因は、不動産へ投資したときの長期借入金の返済なのです。
不動産は投資した当初は、それほど資金繰りを圧迫しません。
それどころか、減価償却費で貯まったお金を借金の返済に充てても、残りがあるのです。
このお金は事業資金にゆとりを与えるので、「不動産に投資してよかった」と考えます。
3つの問題
ところが、年数が経つにつれて3つの問題が発生します。1.修繕費が増えだす
不動産は新築から5年ぐらい経つとちょっとした修繕が必要になってきます。10年経つと、防水工事など大規模な修繕も必要になります。
実は、このお金は取っておかなければいけないのですが、そこまで修繕費がかかると最初は思いません。
そのため、修繕費が不足するのです。
修繕が行き届いていない不動産は、見た目がよくありません。
空室が多くなり、賃料を下げることになります。
すると、より修繕費が貯まらずに、さらに賃料を下げるという悪循環に陥ります。
そして、下げた賃料では借金が返済できなくなっていくのです。
2.不動産の価格が下がり、実質債務超過に陥る。
我が国を取り巻く少子高齢化、財政赤字を原因とする他国に例を見ない、 積み重なったとてつもない額の借金等の問題により、全国ベースでみると不動産を中心とした資産デフレの傾向に歯止めはかかりません。この傾向から不動産を中長期で保有した場合、購入時の簿価と比較して時価ベースで 価格の正確性を求めると貸借対照表の資産の部の額面が大幅に下がり、その結果として純資産が減少します。
ただ、借金は返済した分しか減りませんから純資産減少につられて債務超過になってしまうことがあります。
債務超過は免れたにしても実質貸借対照表は非常に重たいものになってしまいます。
銀行は担保不動産の査定の見直しを数カ月に一度のペースで行っています。
また、毎年貴社が銀行に提出する財務諸表(決算書)を独自の査定方法により時価ベースに引きなおしています。
それにより貴社の格付けが下がり、資金調達の道を閉ざされる最悪の結果になってしまうのです。
3.税金が年々、多くなる
建物は定額法で減価償却するのですが、建物付属設備は定率法で減価償却します。減価償却費は支出がない費用であるため、無駄な税金を支払わなくとも、お金を貯めることができます。
そのため、建物と建物付属設備の減価償却費が大きいほど、借入金の返済が楽なのです。
この定率法とは、最初は大きな減価償却費が計上されるのですが、年数が経つにつれて金額が小さくなるのです。
また、修繕費などもすべて費用になるのではなく、一部は建物付属設備として計上されてしまいます。
つまり、年数が経つにつれて、支払う税金が大きくなるのです。
そこで、土地の価値が大きくて、減価償却費が小さい不動産に投資すればよいのでは、と考えてもいけません。
土地は減価償却しないため、最初から支払う税金が大きくなるだけなのです。
不動産投資
このように、不動産への投資は年数が経つにつれて、修繕費と税金という二重負担が少しずつ増えていき、会社を苦しめることになります。これを、事業の資金で填補するようになり、ある日、資金繰りが行き詰ることに気づくのです。
このとき、すでに不動産の価値は下がって、賃料だけでは借金が返せない状態になっています。
ここで、この不動産が会社の事業に絶対に必要かどうか考えてください。
事業のお金を不動産に回しても、今後もずっと修繕費と税金が増え続けていくので、絶対に再生できません。
それどころか、事業で儲かったお金を事業に再投資しなければ、事業もすぐに陳腐化してしまうのです。
不動産は基本的に必要ない場合も多いはずです。
例えば、事業とは全く関係なく、不動産投資を行っていただけかもしれません。
レストランであっても、他人に不動産を売却して、それを借りることができます。(セールスアンドリースバック)
不動産がなくてもできる事業であれば、不動産は売却するべきです。
今、会社が窮地になっている中で、資金を調達するにしても、再生させるにしても、不動産は足を引っ張るだけのお荷物です。
お金を出資するスポンサーは、事業に関係ない不動産のリスクまでは負えません。
しかも、資金繰りに詰まっている会社の持つ不動産は、修繕などの手入れが行き届いていません。
大きく資金を投入してリニューアルしなければ、賃料を上げることも、高値で売却することもできないのです。
選択肢はただ一つです
すぐにでも決断し、本当の意味で事業に必要不可欠ではない不動産は処分すべきなのです。本当に資金繰りが詰まって、取引先への支払いや社員への給料支払いができなくなった段階で、売却の意思決定をするのは遅すぎます。
そのときには、事業が止まってしまいます。
この事業をもう一度、動かすためには、取引先への説明、社員の再雇用など、膨大な時間と労力がかかるのです。
本当は、売上を上げることに専念すべきなのに、後ろ向きな仕事ばかりが増えます。
結局、銀行などの債権者から事業の再生が難しいと判断されて、破産へ向かうことになるでしょう。
少しだけ早く意思決定していれば、残すことができた事業でさえ、すべで失ってしまいます。
そうなる前に、不動産を事業から切り離すという選択をしましょう。
ポイント
不動産の価値は下がっているので損失が発生して、節税にもなります。ここで、不動産を売却せずに、事業の利益によって銀行から追加の借入を行うことを考えてはいけません。
会社は少しだけ生き延びますが、借金が大きくなることで状況はより悪くなるのです。
あまりに大きな借金は、経営者の責任が追及され、事業の再生の交渉が難しくなります。
今は、会社の資金繰りをよくして、事業を再生することに集中すべきです。
売却しようとする不動産には当然のことながら銀行による別除権(抵当権等)が付帯しています。
不動産を売却しても借金を全額返済できないケースがほとんどなので、設定権者である銀行と交渉し、 売却代金の返済にて抵当権等の抹消に応じてもらうようにします。(決断が早く初期段階) では、不動産を売却して借金の一部を返済しても、銀行が抵当権等の抹消にどうしても応じてくれない時はどうすればよいのでしょうか。
この場合は、銀行の貴社に対する姿勢がはっきりしているわけですから(追加融資等はお断り)、 貴社が再生することでの 銀行に対する経済的合理性を清算価値との比較をもって証明しなければなりません。
スキームとして、会社分割という組織再編を使えば、不動産と事業をうまく切り離すことができます。
スキーム例
A社の事業を子会社として会社分割して、その株をスポンサーまたはA社と無関係(保証人ではない)の第三者(A社の協力者)に売却するという方法です。
最後に残った不動産と株の売却代金で、金融機関などの債権者へ返済します。
もちろん、それだけでは不足しますが、残りはサービサーへの売却をお願いします。
そして、新しいスポンサーのもとで(B社自力の場合もあります)事業を再生させ、分割時にB社に持っていった負債の返済を行っていきます。
このように、事業だけを切り離して、新しいスポンサーが引き継ぐことで、取引先や社員の不安を取り除くことができます。
不動産を売却(任売でも、競売でも)するときの債権者との交渉に事業自体が巻き込まれません。
結果的に、事業が再生して儲かれば、スポンサー、債権者、そして今の役員、社員、取引先、すべてのステークホルダー(関係者)にとって利益になるのです。